メンブレンスイッチとは1
FPCは、ポリイミド(PI)フィルム上の銅箔をエッチングし金メッキし回路を構成しています。熱に強い材料なので、はんだが可能です。(写真:茶色)
一方メンブレンスイッチは、銀フィラーを含有した導電ペーストを(PET)フィルム上にスクリーン印刷することで回路を構成しています。
FPCに比較すると、製作工程がシンプルで安価であることから、近年操作スイッチに多用されていますが、FPCのようにパターン幅を細くしたり、裏表のパターンをスルーホール接続したり、テールピッチを極狭にすることは無理があります。(簡単な回路で、余白があれば、スルーホールも可能)
メンブレンスイッチは、シルクスクリーン印刷技術により考え出され、PETフィルムを基材に導電性ペースト(銀とカーボン)でパターンをシルクスクリーン印刷で転写することで導電回路を形成し、絶縁フィルムをスペーサに、上部を押下することで接点を接触させ導通さています。
スイッチを2つに分けると、押している間だけスイッチがオンする自動復帰型スイッチ(モーメンタリスイッチ)と、押すたびにオンとオフが反転する位置保持型スイッチ(オルタネートスイッチ)があます。メンブレンスイッチは、前者であり保持しておくことも押すたびにON/OFF反転させることも出来ません。単純に押せば回路がショートし離せばオープンになるスイッチです。
機械的なキーボードとは異なり、シート状で薄いものなのでストロークはほとんどありません。
そのため、キーを押下した際の感覚はほとんど感じられません。
キーを押下した感触(クリック感)を求めるなら、金属ドームや表面シートにエンボスを併用するタイプにしてください。
粘着材の貼り付けで作られており、総厚が薄く1~2mm程度で、スイッチを構成しています。裏面も粘着材となっているのでシールのように筐体ケースに直接貼り付けて簡単に使用できます。
表面シートのキー、文字などのデザイン(意匠)はPET材の裏面に印刷されているので、印刷が擦れて消えてしまうことはありません。
表面シートの印刷は裏面からの印刷なので、濃い色から薄い色へ重ね印刷されています。色の境界を濃い色の線で目立たなくします。紙の印刷では、色の境界に後から黒色で縁取り線を書けば境界が見えにくくなります。
注意しなくてはならない点として、基板コネクターへの挿抜は、何度も出来るものではありません。印刷層が削れてしまうからです。コネクターの金属爪と薄い印刷層なので仕方ないことです。
また、折りシワが付くほど折り曲げることも極力しないほうが良いです。印刷層にクラックが入ると、接触不良、断線の不具合が発生することになります。
金属ドーム入りの製品では、筐体(ケース)に貼るときも注意が必要です。金属ドームが変形しないように貼ってください。少し斜めになったからと剥がすと金属ドームに負荷がかかり変形が起きます。
シルクススクリーン印刷
シルクスクリーン印刷は、一昔前のガリ版刷りや年賀状印刷で使われていたプリントゴッコ(理想科学工業)と同じ原理です。 インクが細かい穴から染み出る「孔版印刷」です。プリントTシャツの作成なども同じ方法で印刷されています。色ごとに繰り返して印刷を重ねた多色刷りの版画をイメージしてください。
スクリーン(紗)糸と糸の間の空間からスキージ(ゴムのヘラ)でインキを押し出し、転写形成する印刷です。
刷版枠に紗を張り、乳剤をコーティングした版にポジフィルム(版下)を貼り付け、露光します。現像で光の当たらなかった乳剤を洗い流すと、印刷される部分は乳剤が取り除かれ、乳剤が残ったところはスクリーンの孔が塞がれたまま目止めされていることになります。
この製版上にインキを盛り、スキージを摺動させてインキを押し出し、スクリーンの孔から下にあるPETにインキが転写しパターンが形成されます。
スキージはPETにインクを転移させるのに用います。
スキージの形状には、平型、剣型、角型等があり、主にウレタンゴムが用いられます。
スキージの選定は、形状とゴムの硬度があり、転移されるインクの厚さが変わります。
パターンシート印刷
銀インク(導電性)、カーボンインクで導電回路を構成します。(導通)パターンにレジスト(絶縁)インクを重ねることで、1回目のパターンを飛び越えて、2回目のパターンを印刷し、ジャンパー回路を構成することも出来ます。
テール(コネクターに差し込むケーブル部)は、下電極シートから出るので、コンタクト面は、表面シート側となります。基板とコネクタとの接触面を勘違いしないように注意してください。
打ち合わせにより、裏面コンタクトにすることも可能です。
表面シート印刷
PET材の表面に印刷しているのではなく裏面から印刷されるのでスチールたわしで擦ってもPET材には傷が付きますがインクが剥げてしまうことはありません。
スクリーン印刷はグラビア印刷やパソコンのインクジェットプリンターとは違い一度に多色印刷するものではなく、多色刷りの版画のように1色ずつ濃い色から薄い色へと色を重ねていきます。紙に印刷する場合とは逆で、先に濃い色から徐々に薄い色へと印刷するのは、濃い色で下の色を隠蔽し色の境界を分りにくくするためです。
色の境界に0.5mmの黒線があるとすれば、その下は0.2~0.3程度の別の色が重なって印刷されています。したがって境界線を細くしてしまうとと黒線からはみ出してしまうことになります。また、境界線のないデザインは、配色によって若干の重なりがあるため、変色して見える場合があります。黄色と赤色が重なればオレンジに見えてしまうという具合。
最後に、オサエとして白色やグレー色などで全体をラミネートさせます。地色が薄い配色では、下に貼り付けられるパターンが透けて見えてしまうのも防いでくれます。
アニール処理
樹脂が冷却する過程で生じた内部歪みを加熱して取り除く熱処理のことです。 印刷の乾燥工程で、恒温槽、熱風循環オーブンを使用します。このときの熱でPET材に収縮が発生してしまうと、重ね印刷、寸法精度を得ることが難しくなります。
アニール処理の目的は、
- 物理的安定性、化学的な安定性を向上させます。
- 押出成形、あるいは切削加工により生じた内部歪みを開放させます。
- 内部歪みが開放されて最適な寸法安定が保たれます。
アニール処理する際には、樹脂のガラス転移点よりも高い温度で加熱をする必要があり、できるだけゆっくりと一定の速度で温度を上げてゆき、一定の速度でゆっくりと温度を下げるます。 急加熱、急冷却では、内部の歪みを高めたり、クラックなどを発生させる原因にもなります。
アニール処理においてオリゴマー(白い粉)を噴くことがあります。これは、ポリエステルを合成するときの副生成物で、現在の合成技術では混入を避けることが出来ずポリエステル繊維の中には必ずオリゴマーが含まれています。これが内部から表面に溶出し付着したものです。
メンブレンスイッチの原理構造について
スイッチ上面(接点)部を、押し下げたわませるることで離れていた導電回路が接触し、スイッチとして動作するものです。構造は0.1mm程度のPET材に導電インクでパターンを構成し、電極間にスペーサーとなる両面粘着材(絶縁材)を挟み込んみスイッチの機能を持たせた簡単な構造です。
平常時は接点間が開いていますが、押し下げられることで接点間が接触します。
スイッチの上面は、カラフルな配色やデザインの表面シートが貼り付けられます。
裏面は、粘着材となっており、シールのように筐体ケースに直接貼り付けることが出来ます。
材料構成や印刷による大量生産で、軽量化、薄型化、高信頼性を実現しています。
基本スイッチ構成
表面フラットタイプ
最も安価に仕上がります。
表面がフラットなのでクリック感はありません。キーストロークも感じられません。
表面クリックエンボスタイプ
表面シートにエンボス(凸)加工を施します。ストロークもクリック感が得られます。
PETシートを金型に挟み込み、形状をつけています。
通常金型温度より、高熱で加工をすることで、耐熱エンボスも可能ですが、熱での形状保持なので高温環境下での使用は形がダレてしまいます。
メタルドームタイプ(表面フラット、表面エンボスとの組み合わせになります。)
内部にメタルドームを組み込みクリック感が得られるようにします。
表面シートがフラットでもメタルドームを内部に入れることでクリック感が得られます。表面がフラットの場合は、押下時に押し込みによって表面材が伸びないため、表面シートをエンボスで凸に伸ばしたエンボス加工を施したほうが、よりよいクリック感となります。
表面エンボスは金型イニシャルが必要になります。フラット表面でもクリック感を出したい場合はメタルドームを使います。小ロット向きです。大量に作る場合は、表面エンボスが有利になります。
オリジナルメンブレンスイッチ
カスタム仕様で、必要とされる製品へのメンブレンスイッチが作れます。本体サイズはもちろんのこと、パターン引き回し、キーの配置、テールの長さや出し位置、LCDパネル窓枠、LED実装など、オリジナルな設計で一度スイッチを作ってしまえば、表面シートのデザイン配色やキーの和文・英文など変え製品枠を広げることも可能です。同じスイッチ本体でも表面デザイン外見が変わることで違うメンブレンスイッチに見えるので、共通するキー数なら継続使用も可能です。
メンブレンスイッチは、接点回路も表面シートの印刷もシルクスクリーン印刷で行うため、デザイン時の配色数に応じてイニシャルコストが変化することになりますが、ファッション性に富み、商品イメージの向上すると共に、コストダウン、短納期、多機能などあらゆるニーズに対応出来ます。
- キーの配置・大きさ(大小混在)を部品の配置を気にせず自在に配置できる。
- 密着構造のため、防塵・防水性(耐環境特性)に優れている。各種フィルム材を貼合せて組立られています。
- 接点寿命が長い。メカ的な機械接点でないためトラブルも起こりにくい。
- 操作力(クリックの有無・荷重等)が選択可能。メタルドームの荷重圧により対応します。
ドーム変形により、機能を損なってしまうこともあります。 - パターンシートを折り曲げたり、ジャンパーの重ね印刷をし回路マトリックスも自由に組めます。
- LEDチップ部品を内蔵し小型化が可能。チップサイズ 1.0×0.5も実装しています。
- シールド用印刷シートの組み込みにより、ノイズ障害の低減が可能。電磁波防止機能を持たせた透明シールドシート製品もあります。(印刷以外にアルミ箔をメンブレンシートに貼り合わせ、シールド性を高める方法もあります。)
- 薄型であり、コンパクト設計。フィルムを多層に貼り合わせているだけなのでLEDを実装しても約2㎜厚で製作できます。
- 裏面は粘着材なので直接機器(筐体)への取り付けが容易です。
- 試作等の少量ロットへも対応。
- 表面シートはカラフルな色使いでデザインでき、いろいろなエンボス形状を加工できます。表面にシボ、マットなどの印刷をすることでデザイン的効果を表現できます。
- エンボス金型も簡易金型を使用することでコスト削減。